キミガシネ最終章前編Part31(Abルート)です。
最終章前編Part30(Abルート)はこちら↓
ヒトゴロシゲーム
自分ではないもの
教室
いざ教室を出ようとしたとき、ランマルに呼び止められました。
一刻も早くこの場を去りたいと急いていたサラも、その深刻な様子に歩みを止めざるを得ません。
ランマルは口ごもりながら、どう話したらよいのか迷っている様子でした。
そこからようやく紡ぎだした言葉が、
メイプルから聞いた優勝の話。
サラが優勝すれば、サラとランマルは2人で帰ることができると聞きました。
当然、他の人たちは見捨てることになります。
「どう思う?」と聞かれても、それを知ったうえで「よし、優勝目指そう!」とは、なれないものですが……。
急にそんな話を持ち出してきたということは、ランマルにはその気が出てきたのかもしれません。
思えば様子がおかしいときありましたね。
確か……そう、クルマダがメイプルに殺されかけて、みんなで一斉に5Fに逃げ込んだあたりで。
あのときの思い詰めた表情は、湧き上がってきた優勝したい気持ちと理性との狭間で揺れ動いていたということでしょうか。
なんてこった……サラがサインしかけた同意書を問答無用で破り捨ててくれたイケマルはどこに行ってしまったんだ……。
不穏な空気を察したサラは、ランマルの本心を聞くまでもなく止めにかかりました。
目的は、あくまでみんなで脱出すること。
もちろんランマルもそれが最善であることは理解しています。
しかし……本当にそんなことができるのか?
そんな疑問が脳内を占めました。
理想ばかり追うのではなく、現実的な問題と向き合って思い知ったのでしょう。可能性の低さを。
本気になればなるほど死に対する恐怖は増していき、クルマダを見て気付いてしまいました。
今はもう、死にたくないと思っている自分に。
ランマルの気持ちはわかりますが、それはみんなも同じことです。
みんな死にたくないと思っているがゆえに、犠牲を出さずに一緒に脱出しようと画策しているわけですから。
しかしランマルとしては、みんな死にたくないと思っているからこそ勝たなければいけない、という考えになっていました。
生に執着すればするほど、確実性の高い生き残り方を選びたくなるものです。
この場合のそれは、ルールを守って相手を殺すこと。
もし誰かが……みんなが、そちらに舵を切ってしまったら……?
そうなる前にランマルは手を打ちたくなったのでしょう。
ではなぜそこまで優勝にこだわるのか?
ランマルがひとり生き残るだけなら、黙ってサラを手にかければ済む話です。
けれど、そうはしない。
しないのではなく、できない。
それほどまでにランマルにとってサラの存在は大きなものとなっていました。
逆を言えば、
愛が重い。
さすがにランマルといえどギンくんを殺したら絶許ですよ。
心の内を吐き出したランマルはサラへ優勝するよう懇願しました。
本当はそんなことせずに勝手にサラ以外を殺して回れば優勝できるのですが、そうはしないあたり何よりもサラの意思を尊重していることが見て取れます。
サラも罪な女だ……。
あまりの本気度に戸惑うサラと、理解を得るのは難しいと分かっていながらも一縷の望みに賭けるランマル。
両者の間でしばらく続く無言の時。
先に口を開いたのは、
「そんなの……上手く行かないよ……」
意思に反した言葉を放つサラでした。
確かに自分の発した声、けれど自分のものではない異様な感覚。
さきほど脳内に響き渡った、もうひとりの自分のようなあの存在が遂に表にまで出てきてしまったのでしょうか。
サラにそんな異変が起こっているとは露ほども知らないランマルにとっては、さぞ光明が差す言葉に聞こえたことでしょう。
裏を返せば、上手く行くのならやりたい、と聞こえますから。
サラに少しでもその気があると判断したランマルは、ここぞとばかりに安心させるような言葉を投げかけます。
それに返事をするのは、サラであってサラでない誰か。
「私には……仲間を殺すことなんて……できない」
こんな結果をサラが望んでいないことはランマルも知っています。
だからこそ、すべては自分が勝手にやることだと断言し、サラの不安を少しでも払拭しようと必死に訴えかけました。
「ダメだよ……ランマル。キミにそんなこと……させたくない……。ランマルを傷つけたくない……大事な……友達を…………」
この裏サラ、魔性の女だ……。
自分はあくまで反対する心優しき人間を装いつつ、それでいて相手から「オレは大丈夫」を引き出そうとしている……。
もともとランマルは乗り気ですから、こんな回りくどい手口を使わなくても首を縦に振れば済む話なのですが、そうはしない。
保険を掛けているのか、それとも楽しんでいるのか……。
どちらにせよ、自分のイメージは崩さずに相手を意のままに操ろうとしている様からは恐ろしさを感じます。
そしてまんまと策略に、はまってしまうランマル。
「大丈夫だ……ありがとう……」と、サラの気遣いに感謝すら述べました。
緩んだ口元に気付くこともなく……。
ランマルは改めて覚悟を表明します。
「アリスだって……ソウだって……」
いとわない覚悟を。
それは例外なく、
「ケイジだって……」
ケイジの名が出た途端、サラの中でガラスが大きく砕け散りました。
まるで自分を閉じ込めていた何かから解放されたように、息を切らしながらランマルの言葉を止めます。
しかし、サラにはもうわからなくなっていました。
本心も、誰かを想う気持ちも、自分の心も。
ドス黒い……ドロドロした何かが込み上げて来るのを抑え込むので精一杯でした。
呼吸を整え落ち着きを取り戻したサラは、さきほどのやりとりは忘れるよう告げます。
ランマルからしてみれば、2人で生き残る道を選択する寸前まで来て、また逆戻りです。ひどく残念そうに肩を落としました。
サラに悪気は無いとはいえ、結果的に弄ばれている形になったランマルがちょっとかわいそうですね。
しかもケイジの名前で自分を取り戻すあたり、サラにとってそれだけ大きな存在ということの表れですし。
ランマルの先行きは暗い……。
最終章前編Part31(Abルート)はここまで
最終章前編Part32(Abルート)はこちら↓