「シャーロック・ホームズ」を初めて読む人へのおすすめ翻訳本3作品

今から「シャーロック・ホームズ」を読もうとすると、真っ先につまづくのが翻訳。

ホームズに限らず海外作品すべてに言えることですが、翻訳次第で作品のおもしろさは天と地ほどの差が開くので慎重に選びたいものです。

また、翻訳そのものは悪くなくても、時代が進むにつれ言い回しが古臭くなってしまうこともありますね。

むしろそれがいい、という人もいるでしょうし、出版されてる数が数なだけに好き嫌いも多種多様です。

全ての翻訳作品を読んでベストを見つけるのが1番ですが、そこまでいけばもはや愛好家。

読む前から「どの翻訳が良い?」と悩んでる方にとっては、読みやすい1作品があれば十分であり、それを探し求めてる場合がほとんどでしょう。

そんなわけで!

私自身ずいぶん悩んだうえで、読みやすさに重点をおいた翻訳本をご紹介します。

▼もくじ
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ホームズ作品の読む順番

まず重要な原作の刊行順を抑えておきましょう。

上から順に、

「緋色の研究」(長編)

「四つの署名」(長編)

「シャーロック・ホームズの冒険」(短編集)

「シャーロック・ホームズの回想」(短編集)

「バスカヴィルの犬」(長編)

「シャーロック・ホームズの帰還」(短編集)

「恐怖の谷」(長編)

「シャーロック・ホームズ最後の挨拶」(短編集)

「シャーロック・ホームズの事件簿」(短編集)

の、全9巻。

作品によって「回想」が「思い出」だったり、「帰還」が「生還」だったりとタイトルが若干異なります。

基本的にどこから読んでもわりと問題はないのですが、「回想」と「帰還」だけは順番を守ることを推奨します。

無難なのは、やはり原作の刊行順に読むことですね。そうなると「緋色の研究」からになるんですが、初っ端から長編!

小手調べでいきなり長編は重いな〜と感じる場合は、短編集の「冒険」から手を出してみるのをおすすめします。

大体において、この「冒険」がホームズシリーズの指標となっていて、おもしろかったなら他の作品も楽しめますし、そうでなかったなら縁がなかったと判断できます。

実際に、「緋色の研究」を飛ばして先に「冒険」を刊行していたりと、日本における翻訳本の刊行順は原作とちぐはぐです。

これも読みやすさ、とっつきやすさを考慮しての並び替えなんでしょう。

というわけで、最初に読むのにおすすめなのは、「シャーロック・ホームズの冒険」

続きは、原作の刊行順でも翻訳本の刊行順でもお好きなほうを。

角川文庫

こちらは少し特殊な形態で、同シリーズのなかで翻訳者が2人います。が、

「シャーロック・ホームズの冒険」
訳:石田文子

「冒険」以外の作品
訳:駒月雅子

となっており、石田さんは「冒険」のみです。現時点(20/07/12)で全巻出揃っていませんが、残りの「事件簿」もおそらく駒月さんが担当されるでしょう。

なら「冒険」だけちょっと雰囲気が違うんじゃないの? と心配するかもしれませんが、そこは問題ありません。

どちらも遜色なく読みやすい翻訳をされています。まさに現代風で、違和感のない言い回しがスッと入ってきます。ところどころで漢字を開いてくれているため、パッと見からでも読みやすさが伝わってくるのが◎。

あまりにも漢字がぎゅうぎゅうだと読む前からウヘェ……ってなりますからね。

人物の口調もほぼ同じなので、そのままスッと読み続けられます。

違うところというと、

石田訳のワトスン
地の文「ぼく」 セリフ「ぼく」

駒月訳のワトスン
地の文「私」 セリフ「ぼく」

これくらいでしょうか。

ワトスンの一人称は「私派」が多いですね。ほかの出版社でも軒並み「私orわたし」ですし。

地の文とセリフで一人称が違うため、そこが気になってしまうかもしれません。


ともあれ角川文庫の新訳ホームズ。

読みやすさならピカイチです!

惜しむらくは上述したとおり、まだ全巻出揃っていないことです。最新の「恐怖の谷」が19年10月に出版されているので、あともう少しすれば「事件簿」も出るでしょうか。

「事件簿」が出れば、ようやく全巻出揃います!

すぐに全巻揃えられなきゃイヤ! という方や、別の人の訳でいいから残りの作品を早く読みたい、といった方は次に挙げる出版をおすすめします。

創元推理文庫

新訳版:深町眞理子

こちらも角川文庫に負けず劣らずの読みやすさを誇っています。角川よりは少〜し硬いところもあるかな? という程度です。

ワトスンの一人称も駒月訳と同じ。
地の文「私」 セリフ「ぼく」

角川文庫が無ければ、深町訳のホームズが1番になっていたことでしょう。それくらいすんなりと読めます。

ちなみに、

旧訳版:阿部知ニ

旧訳なだけあって古くて硬くて若干読みづらい印象です。アイリーン・アドラーがアイリーネ・アドラーだったり、日本語の表現が少しひっかかります。

ワトスン「ぼくは帰るほうがいいだろう」
ホームズ「いや、きみ、どういたしまして。そこにいたまえ」

(出典:シャーロック・ホームズの冒険/アーサー・コナン・ドイル、阿部知二)

ド、ドウイタシマシテ?!


ほかにも、ホームズが別の人と話し終えて、急にワトスンに話を振ったとき、

「それからワトスン、さよなら」

(出典:シャーロック・ホームズの冒険/アーサー・コナン・ドイル、阿部知二)

_人人人人_
>突然の別れ<
 ̄Y^Y^Y^Y ̄

この直後に頼みごとをしてくるんですけどね。

こういった不自然な言葉づかいがところどころに見受けられます。これはこれでおもしろかったりするんですが、初見で読むには混乱してしまうかもしれません。

深町さんの新訳版が出揃ったことで旧訳版は絶版になってしまいましたが、電子書籍では健在です(中古も)。電子書籍は偉大だなぁ……。

電子書籍を読むならコミックシーモアがオススメ!

光文社文庫

新訳版:日暮雅通

ワトスンの一人称
地の文「わたし」 セリフ「ぼく」

こちらも創元推理文庫に並ぶ読みやすさです。

挿絵があるので、イラストで雰囲気をつかみたい方はこちらがおすすめです。

3作品の比較

基本的にどれも読みやすい作品ではありますが、些細な部分の違いから結構印象が変わってきます。

ホームズのあるセリフで見比べてみました。


【角川文庫】

「気にしなくていい。ぼくはワトスンの助けが必要なんだ。ということは依頼人にも必要ということだ。ほら、もうやってきた。その椅子にすわって。そして十分に注意して聞いていてくれよ」

(出典:シャーロック・ホームズの冒険/アーサー・コナン・ドイル、石田文子)


【創元推理文庫】

「そっちは気にしなくたっていい。これにはきみの助力が必要になるかもしれないし、ぼくにとって必要なら、依頼人にとってもおなじこと。そら、ご入来だ。きみはそこの肘かけ椅子にかけて、せいぜいぼくらの話を傾聴していてくれたまえ」

(出典:シャーロック・ホームズの冒険/アーサー・コナン・ドイル、深町眞理子)


【光文社文庫】

「気にすることはない。ぼくの捜査にはきみが必要になるかもしれないし、そうなれば、むこうにもきみが必要ということじゃないか。ほら来たよ。その肘掛け椅子にかけて、できるだけ注意して見ていたまえ」

(出典:シャーロック・ホームズの冒険/アーサー・コナン・ドイル、日暮雅通)


角川文庫は現代風でシンプルにまとめられているので、ホームズが1番フレンドリーに感じられます。芝居口調でも説明口調でもなく、現実で口にしても違和感がありません。

創元推理文庫はセリフで「助力」「ご入来」「傾聴」という言い回しが出てくるあたり、ホームズがお硬い人に感じられますね。

光文社文庫は創元推理文庫を若干柔らかくした文章で、ホームズの印象としても少し柔らかくなっています。

とはいっても、光文社文庫は他より「〜〜したまえ」という表現をよく使う傾向にあるので全体的に硬さは抜けきれないですね。

それから個人的に気になるのは「肘かけ椅子」云々の部分。どちらもちょっと説明くさいかなぁと。

セリフなら角川文庫みたいに簡潔なほうがしっくりきます。そこまで言及するほどでもないですけれどね。


どれを選んでもホームズのイメージは大きく変わりないので、ピンときたものを選ぶのが一番でしょう。

まとめ

読みやすさ
角川文庫 > 光文社文庫 ≧ 創元推理文庫

完結しているか(全9作)
光文社文庫  ○
創元推理文庫 ○
角川文庫   × (20/07時点で8作まで)

挿絵の有無
光文社文庫  ○
創元推理文庫 ×
角川文庫   ×

ホームズのような頭のキレが欲しい人生だった。

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